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0562 第562話 さいごの約束 「第七章 生きたあかしを」

私はもう一度本を読みあさり、インターネットで検索してみた。もうエビデンスのある
治療法なんて残っているはずがない。千葉の放射線医学総合研究所の重粒子線も魅力的に
見えたが、今の夫の体力でいくつもの病院をさまよって、全身にあるがんを放射線で治療
できるとは思えなかった。それでも、次の手を用意しておかなくては不安だった。
そのとき見つけたのが、自律神経免疫療法という、のちにすっかり有名になった新潟大
学医学部の安保徹教授が開発した治療法である。あまり高額な費用もかからず、身体に負
担なくできそうだ。効き目も採血したリンパ球の数でデータを出しながら調べていくので、
信用できそうな気がした。
文京区にある昌平クリニックは三ヵ月先まで予約でいっぱいだったが、八王子の素問ク
リニックでは翌週の予約が取れた。
診察を受けると、この治療法は家でもできるとわかった。手足の爪の横をギュッと押し
て自律神経を刺激することによって身体の免疫力を高められるという治療法なのだ。最近、
「指もみ療法」として安保先生の名前と共に有名になっている。
はりきったのは子どもたちだ。貴彦と有沙が「マッサージやさん」のメニューを作った。
●貴彦 ●有沙
・手の爪もみ 十分 100円 ・爪もみ 十分 300円
二十分 300円 三十分 400円
三十分 500円 いつでも 1000円
・肩たたき 十分 200円 ・足もみ 十分 350円
二十分 500円 二十分 550円
三十分 1000円
貴彦オーナーの店と有沙オーナーの店の値段は全然違った。貴彦のメニューには「サー
ビスタイム格安半額!!」までついていた。
夫は笑いながら、
「おまえたちなぁ、もう少し安くしてくれよ。パパ破産しちゃうじゃないか。あれっ、タ
カ、変だぞ。三十分500円なら、十分を三回組んだほうが得だぞ。パパは十分を三回頼
もう」
「だめだよー、パパ」
楽しかった。私もついでにお客になってみると、思ったより二人がマッサージ上手なの
に驚いた。この一年半、ずいぶんパパにマッサージをしてあげていたから、上達ぶりはパ
パへの愛情のあかしかな……。
(坂本敬子著 「さいごの約束」 文藝春秋刊より)
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