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0552 第552話 さいごの約束 「第六章 有機の酒」

五月のゴールデンウイークには友人一家が泊まりがけで遊びにきてくれて、地元大洗の
海で潮干狩りやブギーボートをして楽しんだ。魚市場で魚介類を仕入れて、わけのわから
ない男料理(ブイヤベース風キムチ鍋やらサザエのつぼ焼き、ハマグリの酒蒸し)をみん
なで味わった。夫も珍しく、酒をお燗して一合飲む。夫はお燗した酒が好きだった。
「俺、真夏でも燗酒はうまいと思うんだ。どうして流行らないんだろうな」
とよく言っていた。
毎朝子どもたちと散歩に行ったり、しばらくは静かな毎日が続くと思っていたら、和彦
さんは酒造組合の親睦旅行で北海道に行くと言いだした。まだ肝動注のための手術の傷が
乾いていないので、毎晩消毒しなければならないのに、どうしても行くと言う。これ以上
反対してもケンカになりそうなので、あれこれおみやげを頼んで送り出すことにした。
貴彦が頼んだのはカニ。私は鉢植えのラベンダー。直彦の注文は無難な北海道みやげの
定番「白い恋人」、有沙は「かわいいバッグ」だった。
問題は有沙のバッグだった。米袋みたいな色の大きな袋にキタキツネの絵が描かれてい
るもので、「こんなの、どこがかわいいの!」と有沙はふてくされた。 これだったら、
「白い恋人」のほうがよかったと言っても、直彦は「自分のだから」と一枚もくれようと
しない。ますます機嫌を悪くする有沙に、夫は言った。
「お父さんはかわいいと思って買ったんだけど、女の子の好きなものはわからないよなぁ。
ごめん、ごめん。よし、有沙は特別にお父さんが北海道に連れていってやるよ。大洗から
苫小牧行きのフェリーが出ているから、それに乗っていこう。夜、船に乗れば、寝ている
あいだに北海道に着くんだぞ。帰りはカシオペアだ。よし、二人っきりで行こうな」
「パパ、いつ行ける? 絶対に連れていってね」
「わかった。絶対に行こうな」
二人の会話を聞いていたら、胸が苦しくなった。本当に、この人はそんな約束を守れる
と思っているのだろうか。
(坂本敬子著 「さいごの約束」 文藝春秋刊より)
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