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0551 第551話 さいごの約束 「第六章 有機の酒」

もう春が近くなっていた。田植えの準備には、今がぎりぎりの時期だった。
実は、有機の酒を造るときに、まず難しいのが有機JASの認定を受けた酒米を手に入
れることなのだ。たまたま、今回は義兄が山崎さんを知っていたために可能となったのだ
が、有機米は飯米がほとんどであり、酒造好適米を作ってくれる農家を探すのはとても難
しい。有機米の認定を取るためには、田んぼづくりに三年かかるという。化学肥料や農薬
を使わずに土壌を改良した田で作った米でないと認められない。農薬を使えないから雑草
は丹念に抜かなければならないし、肥料も有機肥料を使用する。ただし、そうして育った
稲はとても強い、と山崎さんは言っていた。台風でも倒れず、しっかりと立っているのだ
そうだ。米に力があるというのだろうか。そういう米で有機の酒が造られるのだ。
しかし、それだけの手間ひまをかけたものには、当然コストもかかるわけで、有機の酒
米は、通常より一俵あたり一万円近く高くなってしまう。そんな貴重な米を使って酒を造
るのだというリスクを、そのときはまったく認識していなかった。

いろいろ調べてみると、有機の酒といっても、蔵元が「有機米を使った酒」であること
をただ勝手にうたっているものと、農林水産省の認可を受けた認定機関から正式に認定さ
れたものの二種類があった。NPO法人「オーガニック日本酒育成機構」の理事長である
村松茂夫さんに相談したところ、
「どうせなら認定を取った酒にしたほうがいいですよ。有機米を使用している酒は山ほど
ありますが、第三者に認定してもらうことによって、誰が見ても堂々とした有機のお酒に
なるわけですから」
とはいうものの、認定を取るのはとても難しいらしい。しかし、「認定を取った酒」と
いう言葉は魅力だった。日本で最初に認定を取った造り酒屋が秋田にあるから、話を聞い
てはどうかと言われたが、そんな遠くに話を聞きにいくのは大変だなぁと思い、とりあえ
ず有機米の手配ができたことで安心し、有機の酒のことは忘れてしまった。
(坂本敬子著 「さいごの約束」 文藝春秋刊より)
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