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0543 第543話 さいごの約束 「第五章 残された時間」

何か次の手はないのだろうか。都立駒込病院の先生を思い出した。保険診療のわずかな
金額で、真剣にセカンドオピニオンを考えてくれた医師である。もう一度訪ねてみようと
思った。
雑誌の「月刊がん もっといい日」やインターネットでも紹介されていた「肝動注」と
いう方法が気になっていた。先生に聞くと、
「たぶん効くと思いますよ。カテーテルを肝臓の入り口まで持ってきて、抗がん剤を直接
注ぎこむのですから」
という答えが返ってきた。私は思わず、
「先生、こちらでやっていただくわけにはいかないでしょうか?」
と畳みかけた。
「やってあげたいとは思うけれど、うちだって混んでいるし、あなたたちよりも先に、最
初から駒込に来ている方を優先しなければならないでしょう? とても無理ですよ。凍結
療法をやってもらった慶応に、もう一度頼んでごらんなさい」
ショックだったけれど、たしかにこんなふうに一つの治療をするたび病院をはしごして
いては、夫を「がん難民」にしてしまう気がした。最後はどこも受け入れてくれないかも
しれない。思いきって慶応病院で頼んでみよう。とにかく若林先生に相談することにした。
「うーん、大腸がんからの転移の場合にはよくやりますし、効いている患者もいるんです
が、食道の場合はどうかな?」
「先生、もう残された方法がないんです。お願いします。やってみないと、あきらめきれ
ないんです」
なんとか頼みこみ、若林先生のもとで肝動注を受けられることになった。
十二月十五日、再び慶応病院に入院。四日後から抗がん剤アイソボリンと5FUの投与
を始めるために、まず脚の付け根の血管からカテーテルを入れる手術を受けた。腰骨の内
側の皮膚の下に小さなポンプが埋め込まれ、そこから抗がん剤を流すしくみになっている。
五〜六センチの小切開手術を受け、ポート(薬剤を肝動脈に導くための器具)を設置し
て、そこに針を刺す。一日目は傷口のはれがひかず、針を刺したとたんに浸出液が滝のよ
うに流れ出した。翌日、なんとか成功する。
(坂本敬子著 「さいごの約束」 文藝春秋刊より)
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