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0542 第542話 さいごの約束 「第五章 残された時間」

陳先生に相談する。一度は、もう有効な薬はないと言った陳先生だけれど、
「タキソテールをやりましょう」
と言ってくれた。イリノテカンと同じく、当時日本ではまだエビデンスがなかった
が、よく使用されている抗がん薬だ。
「敬子、効くかなぁ」
「やってみなければわからないけれど、万が一、効いていなかったら最悪だから、今
回はあまり長く間を置かず、早めにMRIを撮ってもらおうよ。タキソテールがダメ
でも、私、次の手も、その次の手も調べてあるから。まだまだやれる治療はたくさん
あるよ」
明るく言ってみたものの、本やインターネットで調べまくった情報はどこまで正し
いのだろう? 不安な気持ちでいっぱいだった。
イリノテカンと同じく二週間に一度、タキソテールの点滴が始まった。
一ヵ月後、検査の結果は、肝臓の癌が増大多発。
また、坂道を転がり始めている。夫が若林先生に訊いた。
「このままだと、どのくらい生きられるのでしょうか?」
「はっきりとは言えませんが、三ヵ月くらいですね」
自分の余命を聞き、命と仕事のできる時間を秤にかけて考えこんでいる様子だった。
(坂本敬子著 「さいごの約束」 文藝春秋刊より)
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