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0527 第527話 さいごの約束 「第ニ章 闘病が始まった」

ケモラジの1クールが終わり、次のクールが始まるまで二週間家に帰れることになった。
その休みのあいだ、ぜひ試してみたいと思ったのが、NHKのがんの最前線治療の番組で
取り上げられていた免疫療法だった。通常、人間の身体の免疫機構がうまく働いていれば、
がん細胞を増殖させることはない。そこで体内でがんに対する免疫に重要な役割を果たし
ているリンパ球を一回取り出して活性化し、もう一度体内に戻すというのが、この免疫療
法の基本的な考え方らしい。患者の血液を採取し、クリニックでリンパ球を活性化したも
のを二週間後に再び注入する。
おそらくがんの三大治療法である手術、放射線、抗がん剤以外の選択肢として、どんな
がん患者も試してみたいと思う療法なのではないだろうか。免疫療法のメリットは、他の
治療法と併用できること、副作用があまりないとされることである。デメリットは、なん
といっても金額の高さだろう。今は一回ごとに支払うこともできると聞くが、当時は六回
1クールで百数十万円のお金を一括して払いこまなければならなかった。
それでも効果があって副作用がないなら、ぜひ試したい。抗がん剤を投与しないこの二
週間の休みが絶好のチャンスだと思って、陳先生に免疫療法で有名な瀬田クリニックへの
紹介状を書いてもらえるよう頼みに行った。しかし、普段は温厚な陳先生がにべもなくダ
メだと言う。
「併用になんの問題もないとパンフレットには書いてありますし、今の治療の邪魔になる
ようなことは何もしないのですし、ぜひお願いします」
「何もしないと言ったって、注射針は刺すわけでしょう。それで感染する場合もあるし、
リスクはあるんだからダメです」
いつになく強硬な先生の姿勢に、「主治医の方へ」と書かれた瀬田クリニックのパンフ
レットを渡した。それを読んでくれれば、意見が変わるのではないかと期待したのだ。し
かし、読みもしないで紙をたたみ直し、「はい」と返されてしまった。
それでもあきらめきれない私は、退院する直前にもう一度頼んだのだが(実は数カ月前
に電話で予約し、やっと順番がきたのだ)、「やるのなら、癌研の籍をはずしてからにし
てください」と言われた。先生にかすかな不満を抱いた。
(坂本敬子著 「さいごの約束」 文藝春秋刊より)
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