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0526 第526話 さいごの約束 「第ニ章 闘病が始まった」

この入院中、ひさしぶりに実家に泊った。実家のほうが病院に近かったのだ。
夫の発病以来、父とゆっくり話すのは初めてだった。
「おまえが今、いちばんやらなくてはならないのは、子どもたちをしっかり育て
ることだ。それと、和彦さんの病気を治すことだけを考えろ」
と父が言った。仕事のことも心配だし、夫の病気も治る見込みはないと言われ
ているし……と口ごもる私に、父はさらに強い口調になった。
「何言っているんだ。治らないと思うからダメなんだ! とにかく今は治すこと
だけを考えて生活すればいいんだ。仕事はいずれやり直すことができるけれど、
子どもの教育と和彦君のことは、そうはいかないんだぞ。もし、最悪のことが起
こったとしても、おまえはどこに嫁に行っても俺の娘なんだから、安心していて
大丈夫だ。よけいなことは心配するな!」
まるで叱られているようだったけれど、私の不安な胸のうちを察したうえでの
父の言葉だった。もし、和彦さんがいなくなってしまったら三人の子どもを抱え
てどうやって生きていけばいいんだろう、と不安でたまらなかった私の気持ちを
見透かしていたのだ。
何があっても全身で私たちを受けとめてくれる人がここにいた。 そのことが
うれしくて、涙が止まらなくなった。
(坂本敬子著 「さいごの約束」 文藝春秋刊より)
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