0518  第518話  さいごの約束 「第ニ章 闘病が始まった」

 

 大洗に戻り、母屋に預けていた子どもたちを連れて自宅に戻った。パパのいない
初めての夜である。それまで出張などで家を空けることはあったけれど、病気でい
ないというのは初めてのこと。わが家では夫婦の寝室で二つのベッドをくっつけて、
下の二人の子どもたちと一緒に四人で寝ていた。その四人の部屋からパパがいなく
なったのだ。
 そういえば、夫の入院が決まった日の夜、長男の直彦が自分のベッドをずるずる
と私たちの寝室に運んできたのを思い出した。びっくりしたけれど、その気持ちは
痛いほどわかった。もう中学生だからパパの横にもぐり込むのは恥ずかしくてでき
ないし、有沙と貴彦を無理やりベッドからどけることもできない。 そこで自分の
ベッドを持ってきたのだ。軽い簡易ベッドだったのでできたのだろうけれど。心細
い夜を五人で眠った。

 今夜は、もっと心細い。あの次の日、直彦に「そのまま、こっちの部屋で寝てね」
と頼んだのに、「やだよ」と断られ、自分の部屋に戻ってしまった。今日は来てく
れるといいのに。そんなことを考えながら、お風呂に入ったが、まるであたたまら
ない。三月の末だというのに、とにかく寒かった。
 なんにも知らず、大の字になって眠っている二人の子どもたちの間にもぐり込む。
 あたたかい小さな身体に寄り添いながら、この子たちのためにも、半年というの
はあまりに残酷だと思う。
 なんとかしなくては。このまま何もせずに、死を待つことはできない。本当にな
んとかしなくては。

 (坂本敬子著 「さいごの約束」 文藝春秋刊より)