0507  第507話  さいごの約束 「第一章 恐ろしい宣告」

 

 二回目のデートは横浜の三渓園に行った。普通、横浜と言えば、元町や中華街だろう。
またもや渋すぎる選択だった。そのとき今度、仕事関係の旅行でイギリスに行くという
話を聞いた。別に私は欲張りなわけではないのだが、軽く「じゃあ、私にもおみやげね」
と言ったらしい。というのは、そう言ったことさえ覚えていなかったから。
 ところが、律儀な彼は、必ず買ってこなくてはと思ったようだ。旅行中、トランジッ
トのときスーツケースが紛失して、その中に入れてあったほとんどの現金がなくなって
しまい、ポケットにあった小銭のみで帰国、という悲惨な状況だったのに、私におみや
げを買ってきてくれたのだ。

 会社に電話がかかってきて、
「今、成田に着いたのだけれど、今日、これから会えますか? 」
 というので、夕方五時以降ならと、銀座で待ち合わせをすることにした。鞄をなくし
た悲惨な話を聞いて、「じゃあ、今日はラーメンにでもしましょうか」と言ったら、友
だちにお金を借りたから大丈夫、鉄板焼きのお店を予約したという。
 銀座のわりと高級な鉄板焼きとステーキの店に連れていってもらい、美味しいものに
弱い私は「あら、いい人じゃない」と彼に対する印象が変わった。 そのときもらった
イギリスみやげは、当時流行っていたヴィトンでもシャネルでもなく、レノマのバッグ
だった。
 しかも、彼もおそろいのセカンドバッグを買っている。 センスはいまいちだけど、
うれしかった(ちなみに、おみやげは鞄ごとお金を紛失する前に買っておいたらしい)。
 以来、半年ほど交際を続け、見合いの翌年、五月二十五日に結婚式をあげた。

 (坂本敬子著 「さいごの約束」 文藝春秋刊より)