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0506 第506話 さいごの約束 「第一章 恐ろしい宣告」

「こちらの方が、坂本和彦さんです」
と言われても、どちらが自分の見合い相手なのかよくわからなかった。隣にいた仲人
の方が若々しかったので、思わず迷ってしまったのだ。それくらい、よく言えば落ち着
いた、おじさんぽい第一印象だった。
水戸の京成ホテルのティールームで顔を合わせ、車でドライブに行くことになった。
そのころちょっとトレンディだった、つくばの西武デパートで昼食。どこにしようか
あるきまわり、和食の店に決めた。和彦さんが注文したのは、「豚汁定食」。初めての
デートにしては渋すぎる。そのあと、私は一張羅のベルベットのワンピースを着ていた
というのにボウリングに行った。
正直なところ、私は当時、まるで結婚するつもりがなかった。 二十四歳、就職して
二年目で、東京でのOL生活に少し疲れてはいたけれど、真剣に結婚したいという気持
ちはまだなかったのだ。この見合いも、親が日にちを決めてしまったから、しぶしぶ来
たけれど……というのが本音だった。
ボウリングをしてから家まで車で送ってもらったが、なんとなく申し訳ない気がして
別れ際に、
「私、まだ結婚する気持ちないのにお見合いしちゃったんです。ごめんなさい」
と言ってしまった。本当は見合いの場合、仲人を通して伝えるべきなのに。
そう聞いた和彦さんは、相当頭にきたらしい。帰宅途中にいとこの家に寄って、
「なんて人をバカにしている!」
とさんざん文句を言ったと、あとになって聞かされた。なんと、このいとこの友人が
私の会社の上司だったのだ。二十九歳だった彼にしてみれば、わりと真剣に見合いの席
にのぞんだのに、相手がいい加減な気持ちの女だったことに腹を立てたのは当然だろう。
本来なら、そこで縁がなかったはずなのに、私たちをとりもった仲人さんは、プロ中
のプロだった。 私には「先方がとても気に入っている。ぜひもう一度」と伝え、和彦
さんにも同じように言ったらしく、一ヵ月以上たってから、また会うことになってしま
った。
(坂本敬子著 「さいごの約束」 文藝春秋刊より)
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