0496  第496話  酒蔵の町・新川ものがたり 「木魚のアイデア」
  木魚音響会を主宰

 この木魚のアイデアについて、孫の木藤夫は未発表のメモの中で次のよ
うに回想している。

 祖父の隠居役の仕事は殆ど店外専門の様になり、醸造元との交際と各地の
 品評会での醸造試験所又は税務署嘱託の審査員とである。 従って旅行を
 兼ねることとなる。何れも好物酒での仕事である。仕事が済んでも直ちに
 は帰っては来ない。用件がすめば宴会となるし、品評会は 一日では終ら
 ない。利酒(ききざけ)は一度に多くは出来ない。明るい内に切り上げる
 から宴会は長期間になる。利酒のベテランは酔潰れる訳にはいかない。
 何か芸事を持っていないと座がもたない。相手はいろいろ、謡(うたい)
 だけでは足りない。義太夫、常磐津、小唄もいいが、軟いものは祖父には
 向かない。 俳句、囲碁、将棋はやるが、まだ足りない。 何かないかと
 考えた挙句のアイデアが木魚である。

 この思い付きは余程嬉しかったらしい。−宴たけなわ、徐(おもむろ)に
 懐中から取り出してポクポク始める。「木さん、それは何ですか ?」と
 来る。一(い)っ時の講釈が了(おわ)ると「是非ともお弟子に」と来る。
 「雁皮(がんび)の手帳」に入門願を書かせ、帰宅後夫々(それぞれ)に
 雅号を付け、免状を書き、木魚と一緒に小包郵便で送る。これが暇になっ
 た祖父の楽しい仕事にもなった訳である。店から小僧を呼んで来て手伝わ
 せている。大小がある。それを赤い組紐の両端に結んで、ボール箱に入れ、
 免状と一緒に油紙で包み、紐掛けして宛名を書く。結構仕事になる。とみ
 母が茶菓子を出して小僧さんを労(ねぎら)う。この風景は見覚えがある。

 また大正4年6月18日入門の南新堀一丁目の茶師・木村新三(号・竹人
木青真)は、この木魚のご利益について、

 けふも木魚を両手にポク ポク ポク とやり出しますと、ソーラコソ始まっ
 たと家内のものが、はらをかかへて笑ひ出す。 ヤル本人はまじめにて、
 ソラコソ福乃神が御入来・・・・・・これで一家は至極円満、誠に平和、木魚の
 音響御利益如此(かくのごとし)
 目出度し、目出度し、目出度し
 ポク ポクと笑ふ門には福来る、びんぼう神はよりつけもせず
             南新堀のかわりもの    竹人木青真
                           (雁皮の手帳)
と記している。

(酒蔵の町・新川ものがたり 大関と木藤七、木藤夫、木文雄、
 沢和哉共編 清文社刊より