0427  第427話  酒蔵の町・新川ものがたり 「上方趣味誌−2」
  江戸時代の新酒番船

 「上方趣味誌−1のつづき」

 此処辺(ここいら)が船頭も一番の油の乗り処、さッさ遣(やっ)つけろと
 腕限り根(こん)限り、船は荒波を蹴破って浦賀へとさし懸ると船改めの御
 番所がある。首尾よく検査がすむと、シャニムに品川さして飛ぶが如しッ。
 ドブーンと品川の海へ碇を打込んだとなると、早速に急飛脚が新川へと空を
 飛ぶ。何丸が一番船だと触れられると、夜半(よなか)でも待ちに待った船
 が着いたのだ、新川中の問屋は大戸を開けて祝ひの酒肴の準備に取懸る。

 此方(こなた)は、其間(そのま)に荷足(にたり)りへ移して、永代から
 川へと入て行くと、ソラ来た、ヤレ着(つい)た、目出度(めでたい)目出
 度と新川一帯は更に景気立つ。
 其中(そのなか)を船頭は、酒の銘入りの手拭で向鉢巻して、船の名などを
 白抜に染めた朱縮緬(しゅちりめん)の半襦袢に、白縮緬の三尺をグルグル
 巻き、手には小さな太鼓と、五色の紙の采配とを持って足袋跣足(はだし)、
 ソーラいっちゃいっちゃと踊り廻る。問屋々々で酒は飲み放題、肴は食べ放
 題、御纏頭(ごしゅうぎ)には有付く、大した景気のものだった。
 何しろ新酒の初積だ、新川に取ても祝ひ事だもの、少々足し前がいったッて
 仕切も奮発して書いたものである。

(酒蔵の町・新川ものがたり 大関と木藤七、木藤夫、木文雄、
 沢和哉共編 清文社刊より)